J.GARDEN代表インタビュー

24年という長い間お馴染みだった池袋サンシャインシティを離れ、48回目の開催となる今回から、Jガーデンは有明・東京ビッグサイトに会場を移します。来春に迎えるイベント25周年という節目を前に、稲嶺代表にJガーデンの始まりから現在、さらにこの先のことまで、いろいろな話を聞きました。

※2020年3月6日に取材が行われた本インタビューは、開催中止となった「J.GARDEN48」のイベントパンフレット「GARDEN GUIDE48」に収録されました。

新しいことがしたかった

「Jガーデン」第1回は96年5月19日に開催されました。どうしてJUNE・BLオンリーイベントを始めることになったのか、いきさつを知りたいです。

前代表の藤本と私はふたりとも、学生の頃から創作オンリーの同人誌即売会「コミティア」のスタッフをやっていたんです。漫画家のBELNEさんから、当時の雑誌「June」(※)編集部とコミティアに「『JUNE』ジャンルだけのイベントをやりませんか」という相談があったらしく、それを聞いていた藤本が「やりたい!」と言ったとか言わなかったとか(笑)。私も誘われてイベント立ち上げに加わりました。新しいことがしたかったんです。雑誌「June」やJUNE的な創作物は以前から読んでいて影響を受けてたので「何だか面白そうかも!」とワクワクしました。あの頃はJUNE・BL系の雑誌がどんどん刊行されてきた時期で、イベントやジャンルのことを勉強しながら一年くらいかけて準備しました。発足当初の中心メンバーは、JUNE好きなコミティア女性スタッフ数人で、当日の現場は男女問わずコミティアスタッフに手伝って貰いました。イベントを続けるうちに、Jガーデン独自のスタッフも増えてきましたが、今でも変わらず兄貴分のコミティアスタッフにがっつりお手伝いいただいてます。

※雑誌「June」…1978年に創刊(当時の誌名は「COMIC JUN」)。男性同性愛をテーマに、漫画・小説・情報・グラビアなどを幅広く掲載し、雑誌名はコミックマーケット等のジャンル「JUNE」の語源となった。1983年には「小説June」が創刊される。本誌は1996年、「小説June」は2004年に休刊。

初期はどんな雰囲気のイベントだったんですか?

JUNEは元々、同人誌と商業誌の距離が近いジャンルでした。企画協力してくれていた雑誌「June」の作品に限りパロディOKとしていたので、初回426サークルのほぼ半数が『富士見二丁目交響楽団』や『間の楔』などのパロディサークルでした。残りの半数がオリジナル作品を発行しているサークルで、少女漫画の延長のようなほのぼのした学園ものが多かった気がします。回を重ねるごとにオリジナルの割合が増えていきましたが、最初の10年くらいはのんびりしたイベントでしたよ。

変わるもの、変わらないもの

イベントが始まった90年代後半と比べると、現在のJUNE・BLジャンルの盛り上がりは隔世の感があります…。時代とともに、サークルや作品の傾向にも変化はあったのでしょうか。

始めたばかりの頃は「オリジナルJUNEだけの同人誌即売会があるなんて!」とよく驚かれました(笑)。2000年代に入ると、他のイベントではパロディ(二次)を描いていたサークルが、Jガーデンに参加してオリジナル作品を出したりするようになりました。2010年代になると、スマートフォンや電子書籍の普及でBL作品の流通と情報が拡がってきました。SNSなどでJガーデンを知った「同人誌即売会というものに初めて来ました」という人が、サークル・一般参加者ともに、ここ5年くらいで急増しましたね。商業BLが一般的になった影響か、パロディを経由せずいきなりオリジナル作品を発表する若い世代のサークルも多くなりました。作品の傾向でいうと、初期は漫画より小説を出しているサークルの方が若干多かった気がしますが、今は漫画サークルが全体の7〜8割くらいです。デジタル画材の発達もあるんでしょうね。絵で表現するから、ということもあると思うんですが、全体的に性描写が激しくなってきている印象もあります。25年近くイベントを通してJUNE・BLを見ていると、色々な変遷を感じます。

Jガーデンはイベント独自のお遊び企画や、サークル情報以外にも読み物の多いパンフレットが特徴ですね。

「面白いことをやらないと飽きられてしまう!」という焦りがあって(笑)、いろいろな企画をやりました。過去には「オヤジ」とか「歴史」などの特集を組んだり、使用するホールに愛称をつけたり、テーマに合わせた花を飾ったり、連動した展示を行ったりもしました。パンフレットは情報誌だという考えがあるので、作家インタビューや漫画、読者投稿を載せています。同人誌紹介は出来るだけ幅広く。ニッチな趣味でも誰かが好きなんじゃないかと思うんです。これだけの数の同人誌から探し出すのは大変ですから、少しでも読む人の嗜好に合ったものに出逢う機会を作りたい。JUNE・BLというジャンルを色んな切り口で見せつつ、参加者みんなで楽しめることがしたいんです。同人誌を売ったり買ったりする以外にも、イベントに参加すること自体を楽しんでもらえるような企画を、今後もやっていきたいです。

ここ数年の開催回では、企画面が縮小されているようでした。サークル申込多数による抽選や、一般参加者の増加などが影響しているのでしょうか。

近年は参加者の急増に対応するのに精一杯で、なかなか企画やパンフレットで遊ぶ余裕が無くて歯がゆいです。規模が大きくなるにつれ、抽選が発生したり、会場内の混雑が一部でひどい状態になってしまったので、イベント参加のルールについて見直しを行ったり、サークル・一般参加者にも安全なイベント運営のために、あらためて協力をお願いしています。

新しい居場所を求めて

48回目となる今回から、東京ビッグサイトに会場を移すことになりました。24年間開催した池袋サンシャインシティから、有明にお引越しする今の心境を聞かせてください。

池袋という街やサンシャインシティという会場が、Jガーデンのアットホームな雰囲気を作っていたところもあるので、正直寂しいです…。でも、サークルに落選を出さなくて済みますし、通路が広くなってみんなのストレスが軽くなるはずなので、前向きに考えたいですね。一つのホールにまとまるので一体感が出るし、会場内もより廻りやすくなります。ビッグサイトにもJガーデンらしい和気藹々とした空気をそのまま持って行きたいです。居心地の良い新しい居場所になるよう頑張らないと。会場が大きくなりますから、新しいスタッフも増えて欲しいですね。

「J庭存続のためスタッフ募集中!」というアピールに切実さを感じます…。スタッフはJガーデンにとってどんな存在ですか?

参加者の中には知らない方も多いのですが、Jガーデンのスタッフのほとんどはボランティアです。最近、ようやくボランティアスタッフが30名を超えたんですが、当日運用に必要な人数の半分にも満たないんです。スタッフは黒子・裏方ではありますが、一方でイベントを楽しむ参加者でもあります。サークル参加していたり、休憩時間には好きな同人誌を買いに行ったりもしています。JUNE・BLジャンルの本が好きだから、イベントが好きだから、Jガーデンがもっと楽しくなるようにそれぞれが頑張っていて、それがさらなる楽しみになっていくんだと思います。好きなジャンルのイベントを、自分たちのアイデアや工夫次第でより面白くできるのって気持ちいいんですよ(笑)。Jガーデンという「庭」を作って維持したい、そこに来る人を喜ばせたい、そんな人にスタッフに加わって欲しいですね。一緒にもっと居心地よく、刺激的な「庭」を造ってもらいたいです。

25年目の春を前に

来春でJガーデンは25周年を迎えます。途中で初代代表の藤本さんから稲嶺さんへの代表交代がありましたが、四半世紀も続くイベントになるという予感はあったのでしょうか。

最初はイベントをやりきることに一生懸命で、他に何も考えていませんでした(笑)! 11年前、前代表が環境等の変化により代表を続けられなくなり、イベントを閉じようかどうしようかと話し合いました。結局、副代表だった私が引き継ぐ形で代表になりました。Jガーデンが好きっていう人がこんなにいるんだから、続けなきゃなと思ったんです。「まだやれる、まだやりたいことがある」と。Jガーデンのもうちょっと先の姿も見てみたかったし、私自身もう少し遊びたかったんでしょうね。

代表を引き継いで2年後の2011年3月11日、「Jガーデン30」開催の10日前に東日本大震災が発生しました。

被災された方々とはとても比較にならないのですが…個人としても代表としても、あの時期は本当に辛かった。何が起きているのかもわからない状況の中、様々な意見を聞いたり情報をかき集めながら、震災発生から3日でイベントを開催するかどうかの最終判断を出さなくてはいけませんでした。今思い出しても胸がバクバクします。そんな負のご縁を正に変えたくて、震災関連の募金を続けています。

「Jガーデン30」は延期となり、3カ月後の6月26日に振替開催が行われました。都合がつかず欠席せざるを得なかった人もいたと聞きます。先行きが見えず不安な中、難しい決断だったと思いますが参加者からはどんな反応がありましたか?

「やってくれてありがとう」とたくさんの人に言ってもらえてホッとしました。前代表にも「みんなが集まって会話をするだけでも、イベントとして意義があるんだ」と言われました。再開できて本当に良かったです。今現在も、新型コロナウイルスの影響で、どうなるのかまだわかりませんが、「何とか開催できて欲しい」と切に願っています。

これからのJガーデン

Jガーデン48から同人イベントのための託児サービス「にじいろポッケ」に協力をお願いすることになると聞いて、ちょっとびっくりしたのですが、きっかけは何だったんでしょうか。

Jガーデンは参加者の大多数が女性で、出産・育児でイベントや同人誌から離れていく方もいらっしゃいます。実は数年前に私も出産して、現在も子育て中なのですが、経験してみて初めて「親が一人の人間としての自分に戻ること」「その時間をつくること」の難しさと大切さをつくづく感じました。みんな出来てるのかな?って。別に同人関係に限らなくてもいいんですが、イベントに参加することで癒される人も多いと思います。ただ、JUNE・BLや同人誌即売会って、なかなか子供を連れて行きにくい、一緒には楽しみづらい趣味でもあるので、これからの同士たちの為にもちょっと踏み込んで、選択肢を増やせればいいなと協力をお願いすることにしました。でも、利用者が少なかったら継続できないので…検討している方は、ぜひ一度利用してみて欲しいです。

最後に、これからのJガーデンがどんなイベントでありたいか、代表としてどうしていきたいのか教えてください。

年2回しかないイベントですが、参加してる人にとっての「ホーム」になればいいなと思っています。表現したいものをそのまま形にして出すことができる、ここでなら読んでくれる人がいる、と信頼される場でありたい。さらに、あらゆる創作物を受け止めてくれる読み手が集まる場にしたいです。私自身、性別や恋愛かどうかもあまり気にならなくなってきて、もう「空が青い」っていうことすらJUNEだと思えてしまう、ある意味ニッチな嗜好になっちゃったんで(笑)、多くの人には分かってもらえないようなものでも、誰かにとっての「これが私のJUNE・BLです」というのを受け止める土壌であって欲しい。そういう場所を守って育んでいくのが、Jガーデンの役割なのかもしれませんね。そろそろ体力的にも精神的にも厳しい年齢なんですが…とりあえず、来年の50回までは頑張りますよ〜!

取材:2020年3月6日

戻る
PC版表示